嵯峨野文化通信 第105号

 伝統文化プロデュース【連】メールマガジン 
 
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            〔嵯峨野文化通信〕 第105号
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    伝統文化プロデュース【連】は、日本の伝統文化にこめられた知恵と美意識に

          ついて、学び広めていくための活動をしている団体です。

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               毎月1日・15日(月2回)

                    ★VOL:105(2010/6/16)
 
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 ┃も┃┃く┃┃じ┃
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  ○(連載)『餅と饅頭ー和漢の境まぎらわす事ー』————– 第十九回
  ○(連載)『源氏が食べる─平安文学に描かれる食─』———- 第六回
  ○(連載)『北野の芸能と茶屋』—————————— 第九回
  ○(連載)『ちょっとここらで 一休み』———————- 第五回
  ○(連載)『やまとのくには言の葉のくに』——————– 第六十九首
  ○[嵯峨野学藝倶楽部]7月開講講座のお知らせ 

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  101号より通常連載は通常号に、「お知らせ」と座談会は、臨時号にて発行するこ
 とになりました。臨時号もお楽しみに♪

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                  (連載)『餅と饅頭ー和漢の境まぎらわす事ー』
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                   第十九回              
                                    太田 達

  平安時代初期に成立した、『延喜式』の内膳司に「麦粉所」「糯粉所」の名を見る事
 ができる。当時は、精白技術が未発達であるから、現在のような碓と杵による餅造りで
 はなく、一旦、製粉してから搗いていた可能性が大きい。曇徴が日本にもたらした碾磑
 (※注1)が、奈良時代から、平安時代初頭の律令の体制の中で製粉という公営事業の
 基盤となる技術であり装置であった。この、「麦粉所」と「糯粉所」の並列には、日本
 における菓子の発達史において重要な事を示唆していると考える事が出来る。

  これは、此の時期、遣唐使によって多くの唐菓子が移入されたという事実である。「
 唐菓子」とは、簡単に言うと唐からもたらされた菓子の意であるが、本邦における最初
 の人工菓子であると定義できる。それまでの本邦で確認することのできる菓子は、木菓子
 、飴、おこし、黐(※注2)の類である自然菓子と定義すべきものであろうし、それしか
 ないという原始的レベルであった。そこに、小麦粉を使い様々な形状を作りだし、油で揚
 げると云う製菓という概念をもたらしたことは、菓子の世界における革命と言っても過言
 ではなかろう。

  この幾つかの工程を経た「唐菓子」は、その原産地とも言える華北の主作物である小麦
 粉から、最も日本的である米粉を、その原材料に置換していく。後に饅頭が、小麦粉から、
 上用粉へと変化する濫觴(※注3)といえるだろう。

  注1:碾磑(てんがい)   ひき臼の一種。
  注2:黐(はしとぎ)    糯(もち)と同語源である。
  注3:濫觴(らんしょう)  物事の起こり、始まり。起源のこと。

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                (連載)『源氏が食べる─平安文学に描かれる食─』
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                   第六回
                                  荻田 みどり

  今回は、『枕草子』を引いてみよう。

   宮仕へ人のもとに来などする男の、そこにて物食ふこそいとわろけれ。食はする人
   もいとにくし。

  宮仕えをしている女のもとに通ってくる男が、女の家で食事をするなんて、みっとも
 ないったらありゃしない。食べさせる女房も女房だわ。ああ憎らしい。
  現代なら、デートで食事ナシなんてありえないだろうし、彼女の家に行ったら、彼女
 の手料理を期待するもの。しかし平安期には、恋人の家で食事は興ざめだった。食事と
 いう日常的な行為がせっかくの逢瀬に割って入ることで、恋の駆け引きの緊張感が台無
 しになると考えたようだ。
  といっても、このように書かれるからには、こうしたことはよくあったことなのだろ
 う。それでも清少納言は断固として嫌う。

   いみじう酔ひて、わりなく夜ふけて泊りたりとも、さらに湯漬をだに食はせじ。心
   もなかりけりとて来ずは、さてありなむ。

  男がひどく酔って、どうしようもなく夜が更けてお泊りしたとしても、簡単に出せて
 さらさらっと食べられる湯漬だって私なら食べさせるもんですか。男が「冷たい女だ」
 と思ってそれ以降来なくなったとしても、それならそれでいいわ。
  それほど清少納言が嫌う女宅での食事だが、『源氏物語』では描かれることがある。
 次回見てみたい。

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                 (連載)『ちょっとここらで 一休み』
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                    第五回
                                   戸谷 太一

  前回は、一休さんの師である謙翁宗為の話をした。今回は、その師との別れ、そして
 別れに直面した一休さんのとった行動を書きたい。

  応永21年(1414年)、一休さんは師を失う。死別である。
  一休さんは後小松天皇のご落胤と言われている。一休さんの母は、後小松天皇に疎ま
 れ宮中を追われた後に一休さんを産んだ。宮中より出たとは言え、追われた身に対する
 風当たりは強かった。母は最愛の息子の将来を想い、出家させる決意をする。こうして、
 一休さんは6歳にして母から引き離されて暮らすこととなったのだ。
  生れてより父を知らず、幼くして母と引き離された一休さんの寂しさはいかばかりで
 あっただろうか。

  そんな一休さんにとって、厳しくも高潔な謙翁の教えは、尊敬すべき父の姿を思わせ
 るものだったであろう。その敬愛する師が他界してしまったのだ。
  この時の一休さんの様子は「致祭無資、徒心喪耳」(「葬式をしようにもお金がない
 から出来ず、ただいたずらに心中深く喪に服するだけであった」)とされている。この
 後、一休さんは清水寺に師の冥福を祈りに行くのだが、折悪くそれすら行えず、心は荒
 む一方である。
  次に一休さんは近江の石山寺にこもって、一週間も食を断ち師のために祈った。
  一心に祈れども、師を失った悲しみは癒えず、禅宗社会の改革という志は、受け止め
 てくれるはずの師を失い、自らに無力感として重くのしかかる。
  その苦悩の中で、石山寺を後にした一休さんは師の後を追う事を考える。橋の上にた
 たずみ一人つぶやく。「もし助かるなら観音のご加護、死んで魚の餌となるも良いだろ
 う。」観音菩薩は女性であり、一休さんの脳裏には母の姿がよぎったに違いない。
  すわ湖に飛びこまんというみぎり、一休さんを止める声。「早まってはいけません、
 まだ死んではいけません」それは一休さんの母が子を気づかい派遣した使いだった。不
 思議な縁もあるもので、一休さんは自分のこいねがう観音様のご加護によって本当に命
 永らえることが出来たのだ。

  一休さんは母の元に戻り休養をとる。以前の自分を一度殺して、あらためて母のもと
 で産まれなおしたのだ。
  体力を回復した一休さんは、新たな師を求め近江に赴くこととなる。華叟宗曇(けそ
 うそうどん)との出会いである。一休さん第二の人生はここから始まる。
  こうして見てみると、一休さんの少年時代は、父の強さ、そして母の愛を求める旅で
 あった様に思われてならない。時代の荒波に翻弄されながら、親への想いを手がかりに
 必至で前に進もうとする一休さんの姿は、強くもあり、弱くもある。
  そんな姿に、私は心惹かれる。

  今回は漢詩無しです、ごめんなさい!

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                          (連載)『北野の芸能と茶屋』
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                   第九回                  
                                   井上 年和

  寛仁二年(1018)1月16日「左経記」

   参内、早旦仰装束使、令掃南庭雪、晩景出御、節会如例、但雖掃庭雪、庭沙猶濕、
   仍舞妓等於殿南廂舞、(後略)

  北野とは関係ないが、殿中において雪が残る中、南殿廂で舞妓等が舞ったという記事
 である。
  殿中で舞う人の呼び方として「舞人」、「舞姫」は九世紀頃から記録にみられるが、
 11世紀には「舞妓」という呼び方も用いられていたようだ。

  舞妓の舞を鑑賞するという今の花街の原型は、「舞妓」という言葉だけを取りあげる
 と、実は殿中にあるといっても過言ではないのかもしれない。

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                     (連載)『やまとのくには言の葉のくに』
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                   第六十九首             
                                   田口 稔恵

   いかにせむ来ぬ夜あまたのほととぎす 待たじと思へば村雨の空
                (藤原家隆 『新古今和歌集』夏)

   (どうしようか、待っても来ない夜が多いほととぎすを。「待つまい」と思うと、
   ほととぎすが来そうな村雨の空になってきたことだ。)

  古来、初夏の風物として珍重されてきたほととぎすの鳴き声。「枕草子」では、その
 年初めに聞くほととぎすの「忍音」を聞くために徹夜する様も描かれている。

 来ないと思えば来そうな気配、と気まぐれで思わせぶりなほととぎすの様子が、蠱惑的
 に表現されるが、それもそのはず、この歌は恋歌を本歌としている。

  「頼めつつ来ぬ夜あまたになりぬれば待たじと思ふぞ待つにまされる」(拾遺 恋)

  雪の日には火を焚いてでも雪を見、猛暑には釣殿で涼をとる。そんな、ものごとの風
 情を何にも増して重視する都人の手により、来ぬ男を待つ女心の鬱屈は、ほととぎすの
 声を待つ風流な男の歌に読み替えられた。

  艶な匂いだけを、そこはかとなく残して。

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 ◆[嵯峨野学藝倶楽部] 7月開講講座のお知らせ ◆
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 詳しくは、http://www.ren-produce.com/sagano/club/をご覧下さい。

 ★「茶道教室(土曜日コース)」
  日時:7月3、10、24日(いずれも、土)
  時間:15時~20時(ご都合の良い時間にお越し下さい)
  講師:西村 宗靖・太田 宗達
  ※見学/体験も、随時受付けています。

 ★「京文化を語ろう」
  日程:7月10日(土)
  時間:11時~12時30分(90分)
  講師:太田 達
  テーマ:「平城京と平安京」
  参加費:1回1,000円(茶菓子付)
  ※1回のみの参加も、随時受付けています。

 ★「今様・白拍子教室」
  日程:7月10、24日(いずれも、土)
  時間:13時~14時(60分)
  講師:石原 さつき
  ※見学/体験も、随時受付けています。
   性別・年齢・経験は問いません。

 ★「茶道教室(水曜日コース)」
  日時:7月14、28日(いずれも、水)
  時間:13時~18時(ご都合の良い時間にお越し下さい)
  講師:西村 宗靖・太田 宗達
  ※見学/体験も、随時受付けています。

 ★「京都歴史講座」
  日程:7月18日(日)
  時間:11時~12時30分(90分)
  講師:中村 武生
  テーマ:「よみがえる首都京都ー豊臣政権の京都都市改造」
  参加費:1回 1,000円 (茶菓子付)
  ※1回のみの参加も、随時受付けています。

 ★「うたことば研究会」
  日程:7月24日(土)
  時間:15時~16時(60分)
  監修:田口 稔恵
  ※資料代等が必要です。詳細はお問合せ下さい。

 お問合せ・お申込みはコチラまで→ sagano@ren-produce.com

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  やっと梅雨に入りましたね。梅雨入りした途端、あの暑かった気温が嘘のよう
 に下がってしまいました。
  過ごしやすくて快適ですが、同時に気温の差に体が順応するかが不安です。
  体を必要以上に冷やさないようにし、風邪に気をつけてつかの間の涼を楽しん
 でくださいね!

                                (まつだ)

     [次回は、7月1日(木)に配信予定です!次回もお楽しみに。]
 
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多くの方に有斐斎弘道館の活動を知っていただきたく思っております。
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