新年のご挨拶

新年あけましておめでとうございます。
去年もまた、有斐斎弘道館にたくさんの人々が訪れてくださいました。
5年前にマンション建設からまぬがれた建物に、あらたな形で息が吹き込まれていきます。
日々うつろう庭と、その影をうつす座敷にたたずめばいにしえここに集ったで人々の声さえ聞こえてくるようです。
ひとつの象徴的な出来事がありました。
一昨年の暮れ、ちょうど一年と少し前、イタリア人のバイオリン製作者とその友人たちが来られました。お茶が初めてというマエストロに対し、お茶の歴史についても、道具についても、うまく説明はできませんでしたが、和やかな時間を共に過ごすことができ、再会を約して別れました。
あれから一年、師走に入ったころ、マエストロから一本の「茶杓」が届きました。
「バイオリンの材で茶杓ができたら素敵ですね」という話をしていたことを、心にとめてくださっていたのです。バイオリンを作る、まさにその材で、マエストロ自ら、心をこめて削ってくださいました。
バイオリンの優雅な形を写した、世界に一つしかない茶杓。彼はこの茶杓に「ARMONIA」と銘をつけてくれました。
人と人が集い、つながりあい、音色を奏でる。そのハーモニー。
この茶杓を、私たちは12月22日に行われたクリスマス茶会で使わせていただきました。
クリスマス茶会には、いつもにも増して、お茶が初めてという方がたくさん来てくださいました。海外から来てくださった方もおられました。
1席に50名以上もの方々が集う、大寄せの席でしたが、茶席の趣向のなかで、この茶杓をめぐるストーリーに感じてくださったようでした。
まさに、一期一会。
弘道館に来ていただいた方が、笑顔で帰っていかれるのを見ているとこの建物が残されて本当によかったなと思います。
建物のもつ力、場のもつ力。
そして、茶道や能楽といった、伝統芸能のもつ力を実感する毎日です。
室町時代より続く連歌に代表される芸能においてもっとも大切にされたのは「一座建立」でした。
その場にいる人と人とが心を通わせること。茶や能が築きあげた、日本人が誇る「伝統の知恵」をふたたび見直すべき時ではないでしょうか。
近年「つながり」「もてなし」といった言葉が聞かれます。
人々が、災害や地球環境問題、さまざまな国内外の問題を抱える状況にあってなにか、「ほんとうに大事なもの」を求めているのだと思います。
一方で、古い建物は壊され続け、伝統産業の灯は消えつつあります。
私たちに、いま、何ができるでしょうか。
昨年秋、有斐斎弘道館は、公益財団法人となりました。
この「場」が永く後世に引き継がれるよう、務めて参りたいと思います。
ますますのご指導ご協力のほど、何とぞよろしくお願いいたします。
新年は、17日(金)「能あそび」、18日(土)「信仰から見る京都」、19日(日)「初釜」と続きます。
江戸時代の学問所址にふさわしい、楽しい学びの場、知的な遊びの場として、ご一緒に知を深め、発信していくことができればと考えております。
ぜひお誘い合わせの上、お越しください。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
有斐斎弘道館 館長 濱崎加奈子

多くの方に有斐斎弘道館の活動を知っていただきたく思っております。
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