【百人一首を読む・百人一首と読む】
第四回 乙女の姿しばしとどめん
天つ風雲のかよひ路吹きとぢよ乙女のすがたしばしとどめん 僧正遍昭
天つ風という言葉がとても印象的なこの歌。「つ」というのは、今の言葉では「の」と言い換えてもよさそうです。天の風。空を吹く風よ、と呼びかけているのですね。これが海になると、「沖つ白波」。この言葉は和歌でよく見かけます。
私も実は歌詠みなので、歌の作り方を考えるのですが、目の前のものや思いついたことを、最初にぽんと置くと、その後を面白くするのにだいぶ苦労します。この「天つ風」という言葉も、実を言うとあまり和歌では見かけない言葉なので、びっくりしちゃいますね。ただ、この歌のいちばん言いたいことは後の「乙女の姿しばしとどめん」なので、三十一文字をふんだんに使って読ませる和歌になっています。それなりにうまい。ちょっとむずかしい話をしちゃいましたかね?
さて、乙女はどこにいるでしょう?雲で閉じ込めてやれ!というので飛んでいます。天女です。どんな姿でしょうね。空から飛来した美しい乙女をずっと見ていたいので、ちょっといじわるしたいという男心…。羽衣伝説もそうですが、天上界の美女は大変ですね。みなさんも気をつけてください(笑)
ちなみに、僧正遍昭さん、僧正というのはめちゃくちゃ偉い僧侶のことです。いやいや、僧正はん、あんたくらいのお人が何を言うてはりますのや…と思うかも知れませんが、これは出家する前の青年時代の歌であったといいます。どうやら、宮中で美しい姫君たちの舞をみて詠んだ歌らしいのですが、宮中の祭式に着飾った、美しい姫君を、このように幻想的かつちょっとビックリするような言葉遣いで歌にするのです。なんと粋な男ではありませんか!なんだか姫君に声をかけている美青年が思い浮かびます。…僧正はん、あんただいぶモテたな…?
参考文献 島津忠夫『新版百人一首』角川書店1999年11月
(同志社大学四回生 御手洗靖大)
京菓子展「手のひらの自然 – 小倉百人一首」2017の
入選作について
ブログ連載シリーズ【百人一首を読む・百人一首と読む】は、当時の暮らしぶりなどを研究されている御手洗さんに、新鮮な視点で解説いただいております。
今回、解説いただいた「天つ風…」の和歌は、「宮中の美しい姫君の舞」とそれを「幻想的に詠みあげる粋な男」としての僧正遍昭さんにも思いをはせるきっかけになりますね。
そして、この「天つ風…」の和歌をもとに創造された京菓子3点が入選作となり、有斐斎弘道館と旧三井家下鴨別邸で展示されております。
(楚楚/和田梨華子 旧三井家下鴨別邸にて展示)
(余韻/秋山亜弓 旧三井家下鴨別邸にて展示)
(舞うひと/今村友紀 有斐斎弘道館にて展示)
(写真・撮影:久保田狐庵)
展示は11月5日までとなっております。
是非、ご観覧くださいませ。
<京菓子展 公式ホームページ>
https://kodo-kan.com/kyogashi/