『手のひらの自然 京菓子展 2022』枕草子を読んでみる ①春はあけぼの

 今年で八年目となる京菓子デザイン公募展「京菓子展 2022 – 手のひらの自然」、テーマは『枕草子』です。皆様に応募して頂くにあたって、『枕草子』の魅力をお伝えしていきたいと思います。


 

突然ですが、春の風物詩といえば…?多くの人がぱっと思い浮かべるのは桜ではないでしょうか。もしくは梅、ウグイス、春霞など…。『枕草子』の冒頭は、「春はあけぼの。」からはじまります。

 

春はあけぼの。やうやうしろくなり行く、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる。

春といえば、曙(明け方)。ようやくあたりも白んでゆくうち、山の上の空がほんのり明るくなって、紫がかった雲の細くたなびいた風情。

清少納言は春ならではのものを挙げるのではなく、曙(明け方)をとりあげました。平安時代の人たちの中では、春の風物詩として曙(明け方)も定番だったのかというと、そうではないようです。
枕草子の影響を受けてか、 『新古今和歌集』や『山家集』になると和歌の中に「あけぼの」の単語が出てきます。しかしこれより前の時代の『万葉集』や『古今和歌集』などには、春と朝をつなげた歌はありましたが、「あけぼの」を使った和歌はありませんでした。満開の桜や散り際の桜のような春の定番はあえて挙げるまでもない、ということでしょうか。
続きを読んでみます。

 

夏はよる。月の頃はさらなり、やみもなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただひとつふたつなど、ほのかにうちひかりて行くもをかし。雨など降るもをかし。

夏は、夜。月のある頃はもちろん、月のない闇夜でもやはり、蛍がたくさん乱れ飛んでいる風情。また、ほんの一つか二つ、ほのかに光って飛んでいくのも、趣がある。雨など降るのも、趣がある。

秋は夕暮。夕日のさして山のはいとちかうなりたるに、からすのねどころへ行くとて、みつよつ、ふたつみつなどとびいそぐさへあはれなり。まいて雁などのつらねたるが、いとちひさくみゆるはいとをかし。日入りはてて、風の音むしのねなど、はたいふべきにあらず。
 
秋は夕暮。夕日がさして、もう山の頂に落ちかかろうとするころ、烏がねぐらに帰ろうとして、三つ四つと思い思いに、帰りを急ぐ姿までも、哀れを誘う。ましてや、雁などの列を作ったのが、小さく小さく空の遥かをわたって行くのは、とても趣がある。日が落ちてしまってからの、風の音、虫の音など、これはもう改めて言うまでもない。

 

ここでも、秋の定番の紅葉などは取り上げず、夕暮れが挙げられています。
秋と夕暮れといえば、藤原定家の「見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ」など、「秋の夕暮れ」で締めくくられる三首の「三夕の歌」が有名です。ところが「秋は夕暮れ」の歌は『新古今和歌集』以降に定番化したものです。

『枕草子』が名文といわれる所以のひとつには、このように、清少納言が和歌的伝統を正面から表現せず、独自の感性を示したところにあります。

 

冬はつとめて。雪の降りたるはいふべきにもあらず、霜のいとしろきも、またさらでもいと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。晝になりて、ぬるくゆるびもていけば、火桶の火もしろき灰がちになりてわろし。

冬は早朝、雪の降ったのは、改めて言うまでもなく、霜が真白におりているのも、また、そうでなくても、ひどく寒い朝、火などを大急ぎでおこして、炭を御殿から御殿へ運んで行くのも、いかにも冬の早朝の景としてふさわしい。昼になって、気温が暖かくゆるんでくると、炭櫃や火桶の火も白く灰をかぶってしまって、みっともない。

 

また、『枕草子』の特に冒頭が名文といわれるのは、短い文章の中に時間の変化の流れや対比をおりこんだところです。
春から冬へ。そしてそれぞれの段の中でも、朝から昼へのような一日の中での変化があります。また、雪・霜などにはじまり炭を運ぶ人が登場するなど、自然から人事への視点の変化も。
「あけぼの」と「夕暮れ」、「山際」と「山の端」、「月」と「闇・夜」、「烏」と「雁」、「ただ一つ二つ」と「三つ四つ二つ」、…短い章段ではありますが、非常に考えられた構成であることがわかりますね。

ぜひ枕草子を読んで、清少納言の鋭い感性と観察力を感じるとともに、自分の感性にも磨きをかけてみてください!次回は「枕草子」の本をいくつかご紹介します。

 

本文引用:「国文学研究資料館ホームページ 日本古典文学大系本文データベース(池田亀鑑ほか『日本古典文学大系』岩波書店、1958年)」
現代語訳:石田譲二=訳注『新版 枕草子 現代語訳付き』昭和54年、角川ソフィア文庫
参考:坂口由美子『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 枕草子』平成13年、角川ソフィア文庫

 


https://kyogashi.jp/application2022
京菓子展2022「手のひらの自然ー枕草子」の作品公募がスタートいたしました!

八年目となる本年は、千年以上も前に著された、清少納言の『枕草子』をとりあげます。
ご応募お待ちしております。

▼応募フォーム
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京菓子展2022「手のひらの自然ー枕草子」
▼応募受付
6月20日(月)〜8月31日(水)必着
▼募集部門
①京菓子デザイン部門/どなたでも応募可能。
菓子職人が、デザイン画を菓子にします!
②茶席菓子実作部門/実作可能な方。
※年齢、国籍、プロ・アマは問わない。
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※大切なお知らせ※
これまで、制作費等を含めて無料にて応募をいただいてまいりましたが、本年より、京菓子デザイン部門の一次審査通過者には、審査および展示等のための菓子作品20個を制作するための費用の一部として20,000円をお支払いいただくことといたしました。また、これまでデザイン部門の方には作品を実食していただくことができませんでしたが、今回より、ご自身でデザインされた菓子作品を4個発送させていただくことにいたします(25歳以下の学生は除く。また発送先は日本国内に限る)。展覧会の開催継続のためご理解のほどお願いいたします。なお、25歳以下の学生は引き続き無料といたします。

多くの方に有斐斎弘道館の活動を知っていただきたく思っております。
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