嵯峨野文化通信 第103号

 伝統文化プロデュース【連】メールマガジン 

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             〔嵯峨野文化通信〕 第103号
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    伝統文化プロデュース【連】は、日本の伝統文化にこめられた知恵と美意識に

          ついて、学び広めていくための活動をしている団体です。

         京都・嵯峨野から、最新の情報を皆さんにお届けします!

               毎月1日・15日(月2回)

                    ★VOL:103(2010/5/15)

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  ○(連載)『餅と饅頭ー和漢の境まぎらわす事ー』————- 第十七回
  ○(連載)『源氏が食べる─平安文学に描かれる食─』——— 第四回
  ○(連載)『ちょっとここらで 一休み』——————— 第三回
  ○(連載)『北野の芸能と茶屋』—————————– 第七回
  ○(連載)『やまとのくには言の葉のくに』——————- 第六十七首
  ○[嵯峨野学藝倶楽部]5月・6月開講講座のお知らせ

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                  (連載)『餅と饅頭ー和漢の境まぎらわす事ー』
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                   第十七回                 

                                    太田 達

  確かこれが現在の「民博」(国立民族学博物館)につながっていくのだと思うのだが、
 それぞれの民俗文化の多様性に気づいた時、日本全国各地で、素朴な祈り、習俗、社会
 システムが音をたてる事も無く、静かに、しかし怒濤の如く失われていた時期であった
 と当時中学生であった私は知る由もなかった。その事が今、心の底から悔やまれる。

  日本列島の各地で見られた神々との饗宴の食の代表である「粢(しとぎ)」など、こ
 の時期に失われた典型的な「もの」であろう。「粢」は、ヒトが火を使用する事を覚え
 る以前の、炭水化物を摂取する為の調理方法と考えられる。脱穀した米、あるいは黍、
 稗、粟などの穀類を一夜水漬けし、柔らかくしたものをすり潰し、まるく固めた物であ
 る。基本的に、粳米を使う方が多い。朝鮮半島における「トッ」に近く、これを起源と
 してもよいかもしれないが、粉食文化の根幹的な調理法であることを鑑みると、文化の
 同時多発性のあり得る項目になるかもしれない。トッは、粳米を主な原料として、その
 製法は大きく「蒸し餅」「搗き餅」「焼き餅」「茹で餅」の四態に分類出来る。このう
 ち、「蒸し餅」=「チントッ」が、最も古くから作られていた。青銅器時代の半島の遺
 跡から「トッ」を蒸すための「シル」という器具が出土している。統一新羅時代より高
 麗時代にかけて、米以外の穀類や果実なども材料として用いられるようになり、先祖祭
 祀「チエサ」や、茶礼「チャレ」の儀礼食として様式化していった。私もかつてソウル
 の宮廷料理研究所というところで、「チャングムの食卓」の監修をされた「韓福麗」先
 生に指導を受けながら幾つか実習させていただいたのだが、これは、餅というより蒸し
 パン的、あるいはカラフルなホールのスポンジケーキのように感じた。日本のシトギ的
 なのは、「搗き餅」系の方である、日本人に馴染みの深い「トッポギ」などはこの「搗
 き餅」=「チントッ」という。

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                (連載)『源氏が食べる─平安文学に描かれる食─』
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                   第四回

                                  荻田 みどり

  5月15日は葵祭。葵と桂の葉を頭に挿し、平安装束に身を包んだ勅使や斎王代など
 が下鴨神社から上賀茂神社まで練り歩く路頭の儀は壮観である。祭の起源は今から14
 00年も昔のこと。『源氏物語』の中でも「祭」といえば葵祭(当時は賀茂の祭と呼ば
 れる)を指して記されている。
  幾度か描かれる葵祭の中でも特に有名なのが、葵巻の車争い。
  桐壺帝から朱雀帝に代替わりし、賀茂神社に奉仕する斎院も改められた。その初めの
 祭である。源氏も宣旨によりこの列に加わる。この光景を一目見ようと遠国から妻子を
 引き連れて来る人もいるほどの賑わいであった。
  葵の上も母宮に促されて車に乗る。身分の高い車も多くて、なかなか止める場所が見
 つからない。花見見物の場所取り状態である。何とか他を退けて場所を確保しようとす
 ると、そこにはわざと質素にしているが品の良さが垣間見える車があった。「この車は
 押し退けてよいものではない」とその車の従者は言い張って、手も触れさせない。実は、
 この車の主が六条御息所である。いつも思い悩んでいる気晴らしにと、人目を忍んでこ
 っそりと出かけて来ていた。それなのに従者たちは場所取りの喧嘩を始める。

   いづ方にも、若き者ども酔ひすぎ立ち騒ぎたるほどのことは、えしたためあへず。
   おとなおとなしき御前の人々は、「かくな」などいへど、え止めあへず。

  酒が入った若者たちを止める術はない。葵の上の従者も六条御息所の従者も、酒によ
 ってわきまえるところを見失い、車争いの騒ぎは世間に周知のものとなる。源氏の耳に
 も届く。六条御息所の物思いはさらに激しくなる。
  逆にいえば、酒のせいだから仕方ないという逃げ道でもある。葵の上は六条御息所の
 ことを気の毒に思いながら、酒を含んだ従者を止めるのも煩わしく、「知らず顔をつく
 る」。前回と同様、食(酒も口に含むもの)によって、葵の上は従者を切り離している。
 六条御息所は身をやつした姿であるから、知らず顔もできない。悔しさが滲む。
  この車争いが火種となり、生霊となった六条御息所は、葵の上を死に至らしめる。
  祭の無礼講もほどほどに。「知らず顔」する方もできない方もきまり悪いものである。

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                     (連載)『ちょっとここらで 一休み』
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                    第三回

                                   戸谷 太一

  犀 牛 扇 子 与 誰 人
  行 者 盧 公 来 作 賓
  姓 名 議 論 法 堂 上
  恰 似 百 官 朝 紫 宸

  応永十六年(1409年)、一休さん16歳の時の詩である。この詩が出来た経緯は、
 一休さんの伝記『東海一休和尚年譜』に記されている。
  「師十六歳、結制日、聞秉払僧喜記氏族門閥、掩耳出堂、乃作二偈、呈慕哲翁、々曰、
 今叢林頽靡非一柱可支、三十年後子言必行、忍以待之、(後略)」
  何やら難しい文章だが少々お付き合い下さいませ。
  これを訳すると、「師(一休)16歳、結制の日(禅寺の行事)に、秉払の僧(説教
 をする僧)が喜んで氏族や門閥の話(家柄自慢)を記しているのを聞き、耳をふさいで
 お堂を飛び出した。そして、詩を二つ作り慕哲翁(一休の詩の師匠)に見せたところ、
 翁は言った、今の叢林(当時の禅宗社会)の頽廃は一人の人間で支えられるものではな
 い、30年後に言ったことを実行しなさい、なので忍んで機会を待ちなさい(後略)」
 とでもなるだろうか。
  今回の詩は、その二つの内の一つである。ちなみに、もう一つは連載の初回に紹介し
 た詩なのですが、皆さま憶えていらっしゃるでしょうか…(笑)
  30年後に、この詩を一休さんは自らの詩集『狂雲集』にのせることとなる。
  一休さんの生きた室町時代は、将軍や貴族といった非常に裕福な人たちも居れば、そ
 の日の食事も無いような貧しい人たちが街にあふれかえっていた。
  寺は本来はそういった格差とは無縁な社会のはずだった。しかし、現実は家柄を自慢
 するような僧が偉そうに説教をしようとしている。一休さんはそのことに対するやるせ
 ない想いを詩にしたためたのである。
  30年後、一休さんは腐敗止まない禅宗社会に向かって、この詩をぶつけたのである。

 (詩の訳:仏性をあらわす犀牛の扇子は与えるまでもなく誰もが持っている(仏性:仏
 になるための性質)、六祖慧能は出身がいやしくとも五祖の客となった(慧能:中国の
 禅僧。ここでは、出身が貧しい慧能が師に見抜かれた、ということ)身分のことを議論
 するのは、朝廷に仕える人々にまかせて、法堂ですることではない)

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                          (連載)『北野の芸能と茶屋』
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                   第七回                  

                                   井上 年和

  第1回~6回までで、北野の茶屋の発生過程をみてきた。

  要約すると、

 1 14世紀には、既に北野社では茶を製造していた。
 2 15世紀後半には、御子の茶屋が七軒茶屋と同じ位置にあった。
 3 16世紀には、巷所の開発として茶屋が増えていった。

  ここで一番注目しなければならないのは、「御子」の活動内容であろう。
  御子が茶を販売していたのか、単に神供用のものを取り扱っていたのか、また、既に
 参詣人や庶民に茶を振る舞っていたのか、はたまた、既に「引手」まがいのことをして
 いたのかわからないが、北野社本殿に近く、目代である松梅院の西隣という位置で、茶
 屋を開いていたというのは事情があるのだろう。
  祗園社では「洛中白川辻職」と呼ばれた餅・菓子の商人は、祗園社の巫女右方四座が
 統括していたり、また、巫女は遊女や傀儡、白拍子など諸国を遍歴する芸能民との繋が
 りが深かった。
  宗教者である巫女が、商売人や芸能民を統括していたとすれば、御子茶屋が放火され
 たのを機会に、これらのコンサルティング業務をよそに頼むようになるのは当然の成り
 行きかもしれない。

  次回からは宮廷文化と北野の関係を追求していきたいと考えています。

 *訂正とお詫び

 第6回に誤りがありました。

  「167文の地子を27文免じてもらったというものです。」
 →「167文の地子を37文免じてもらったというものです。」

 大変申し訳ありませんでした。

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                     (連載)『やまとのくには言の葉のくに』
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                   第六十七首                 

                                   田口 稔恵

 紀の国の五月なかばは
 椎の木のくらき下かげ
 うす濁るながれのほとり
 野うばらの花のひとむれ
 人知れず白くさくなり、
 佇みてものおもふ目に
 小さなるなみだもろげの
 素直なる花をし見れば 恋人の
 ためいきを聞く心ここちするかな

 蜜柑ばたけに来て見れば
 か弱き枝の夏蜜柑
 たのしげに
 大なる実をささへたり。
 われもささへん
 たへがたき重き愁を
 わが恋の実を。

 (「ためいき」佐藤春夫 第一連、第五連)

  「日本植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎が、熊野で植物採集をしていた時、土地の
 人に、「熊野の人は、額と同じ。表が綺麗で裏がない。」と言った。それを伝え聞いた、
 熊野出身の南方熊楠が、「熊野の本当の姿を知らない人の発言だ」と呆れていたという。

  熊野出身の自身としては、牧野富太郎の褒め言葉が嬉しくもあり、南方熊楠の言葉に
 大いに納得するところでもあり、と、少々複雑な心境だ。
  南国の強い陽光は、暗い影もまた作り出す。その影(隈)が、熊野、という語の語源
 ではないかとも言われる。

  熊野出身の佐藤春夫にとって、やはり熊野は濃い影を歌うべき地であった。鬱蒼と茂
 る椎や蜜柑の暗緑色の影に、ひそかに息づく光がある。
  それは、白い花であり、重たげに実る蜜柑であって、自らの心のひだに織り込まれた、
 秘めがたい辛い恋の象徴といえる。

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 ◆[嵯峨野学藝倶楽部] 5月・6月開講講座のお知らせ ◆
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 詳しくは、http://www.ren-produce.com/sagano/club/をご覧下さい。

 ★「京都歴史講座」
  日程:5月16日(日)
  時間:11時~12時30分(90分)
  講師:中村 武生
  テーマ:「ついに成った!平安宮内裏跡への顕彰-全京都建設協同組合の記念事業と
      源氏物語千年紀」
  参加費:1回 1,000円 (茶菓子付)
  ※1回のみの参加も、随時受付けています。

 ★「今様・白拍子教室」
  日程:5月22日(土)
  時間:13時~14時(60分)
  講師:石原 さつき
  ※見学/体験も、随時受付けています。
   性別・年齢・経験は問いません。

 ★「茶道教室(土曜日コース)」
  日時:5月22日、29日(土)
  時間:15時~20時(ご都合の良い時間にお越し下さい)
  講師:西村 宗靖・太田 宗達
  ※見学/体験も、随時受付けています。

 ★「うたことば研究会」
  日程:5月22日(土)
  時間:15時~16時(60分)
  監修:田口 稔恵
  ※資料代等が必要です。詳細はお問合せ下さい。

 ★「茶道教室(水曜日コース)」
  日程:5月26日(水)
  時間:13時~18時(ご都合の良い時間にお越し下さい)
  講師:西村 宗靖・太田 宗達
  ※見学/体験も、随時受付けています。

 ★「京文化を語ろう」
  日程:6月12日(土)
  時間:11時~12時30分(90分)
  講師:太田 達
  テーマ:「宗教から京都を考える~愛宕~」
  参加費:1回1,000円(茶菓子付)
  ※1回のみの参加も、随時受付けています。

 ●URL
  http://www.ren-produce.com/sagano/club/

 お問合せ・お申込みはコチラまで→ sagano@ren-produce.com

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  先日、起きがけに眼鏡を踏んでしまい、フレームが曲がってレンズが取れてしまい
 ました。それで近所の眼鏡屋さんに修理に持って行ったのですが、店員さんがとても
 親切に対応してくれました。
  修理は無料だったので、持って行ったお金で眼鏡スタンドを購入しました。
  親切にしてもらえると嬉しくなりますね。接客のこつを教わった気になりました。

                                (まつだ)

     [次回は、6月1日(火)に配信予定です!次回もお楽しみに。]

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多くの方に有斐斎弘道館の活動を知っていただきたく思っております。
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