今年で八年目となる京菓子デザイン公募展「京菓子展 2022 – 手のひらの自然」、テーマは『枕草子』です。皆様に応募して頂くにあたって、『枕草子』の魅力をお伝えしていきたいと思います。
枕草子といえば「春はあけぼの」に続いて、この章段を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。今回は「うつくしきもの」を取り上げます。この段は難解な表現がなく、単語の意味さえわかれば時代を経ても共感しやすい文章です。
【一五一】「うつくしきもの」
うつくしきもの 瓜にかきたるちごの顏。雀の子の、ねず鳴きするにをどり來る。
かわいらしいもの 瓜に描いた赤ん坊の顔。雀の子が、チュッチュッと言うと、ピョンピョンはねて寄って来る。
―「うつくし」はもともと、妻・子・老母などのような肉親の弱いものに対するいつくしみをこめた愛情を表した言葉で、ここでは幼少の者、小さい物などに対する「かわいい」の意です。
二つ三つばかりなるちごの、いそぎてはひ來る道に、いとちひさき塵のありけるを目ざとに見つけて、いとをかしげなるおよびにとらへて、大人などに見せたる、いとうつくし。
頭はあまそぎなるちごの、目に髮のおほへるをかきはやらで、うちかたぶきて物など見たるも、うつくし。
おほきにはあらぬ殿上童の、さうぞきたてられてありくもうつくし。
をかしげなるちごの、あからさまにいだきて遊ばしうつくしむほどに、かいつきて寢たる、いとらうたし。
二つ三つほどの赤ん坊が、急いで這って来る途中に、ほんの小さい塵のあったのを目ざとく見つけて、なんとも愛らしい指でつまんで、大人などに見せたのは、とてもかわいらしい。
髪の毛を尼そぎにした子供が、目に髪のかぶさっているのを、かきのけることはしないで、頭をかしげて何か見ているのも、かわいらしい。
あまり大きくない殿上童が、着飾らせてもらってあちこちするのも、かわいらしい。
愛くるしい赤ん坊が、ほんのちょっと抱いてあやしかわいがるうち、取りついてねむってしまったのは、とてもかわいらしい。
―この段では、ほかにも「ちご」の有様が挙げられており、作者の子どもに対する暖かい眼差しが感じられます。
しかし、赤ちゃんや子どもが可愛い!というだけではなく、時には辛辣な意見を書くのが清少納言らしいところ。
「人ばえするもの(人がそばにいると図に乗るもの)」として「なんということもない、つまらない子供だが、親の甘やかしつけているの」。「かたはらいたきもの(腹立たしい、イライラするもの)」には「不細工な赤ちゃんを大事に可愛がって、その子の声真似をしてしゃべったことを人に話している母親」をあげたり、「にくきもの(にくらしいもの)」として「自分が人の話を聞こうとしているときに、泣き出す赤ん坊」をあげるなど…。この3つの段には、他にも清少納言の厳しい率直な意見が挙げられていてくすっと笑えます。
蓮の浮葉のいとちひさきを、池よりとりあげたる。葵のいとちひさき。なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし。(後略)
蓮の浮葉のごく小さいのを、池から取り上げたの。葵のとても小さいの。なんでもかんでも、小さいものは、みなかわいらしい。(後略)
―こちらのお菓子は、「蓮の浮葉のいとちいさきを取りあげたる」の部分から、本展覧会のために職人さんが作ったものです。ご銘(お菓子の名前)は「姫達」。小さくかわいいイメージで名づけられたとか。清少納言が小さな蓮の葉に感じた愛おしさ・かわいらしさがそのご銘にも表現されています。
京菓子において、見た目・デザインや味はもちろん、その「銘」も重視されます。お菓子の銘は、和歌よりもさらに短い「文学」です。ワンフレーズにお菓子のテーマや表現したいものを込めます。同じお菓子でも、銘が変われば与える印象ががらっと変わることも。
お菓子のデザインを考えるだけでなく、銘もひとひねりしたものを考えてみてはいかがでしょうか。
本文引用:「国文学研究資料館ホームページ 日本古典文学大系本文データベース(池田亀鑑ほか『日本古典文学大系』岩波書店、1958年)」
現代語訳:石田譲二=訳注『新版 枕草子 現代語訳付き』昭和54年、角川ソフィア文庫
参考:坂口由美子『ビギナーズ・クラシックス日本の古典 枕草子』平成13年、角川ソフィア文庫
京菓子展2022「手のひらの自然ー枕草子」の作品公募がスタートいたしました!
八年目となる本年は、千年以上も前に著された、清少納言の『枕草子』をとりあげます。ご応募お待ちしております。
▼応募フォーム(ページ最下部の「応募フォーム」よりお進みください)
https://kyogashi.jp/application2022
京菓子展2022「手のひらの自然ー枕草子」
▼応募受付6月20日(月)〜8月31日(水)必着
▼募集部門
①京菓子デザイン部門/どなたでも応募可能。菓子職人が、デザイン画を菓子にします!
②茶席菓子実作部門/実作可能な方。※年齢、国籍、プロ・アマは問わない。
※大切なお知らせ※
これまで、制作費等を含めて無料にて応募をいただいてまいりましたが、本年より、京菓子デザイン部門の一次審査通過者には、審査および展示等のための菓子作品20個を制作するための費用の一部として20,000円をお支払いいただくことといたしました。また、これまでデザイン部門の方には作品を実食していただくことができませんでしたが、今回より、ご自身でデザインされた菓子作品を4個発送させていただくことにいたします(25歳以下の学生は除く。また発送先は日本国内に限る)。展覧会の開催継続のためご理解のほどお願いいたします。なお、25歳以下の学生は引き続き無料といたします。