嵯峨野文化通信 第129号

 伝統文化プロデュース【連】メールマガジン

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  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄)   [嵯峨野文化通信] 第129号
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 伝統文化プロデュース【連】は
 日本の伝統文化にこめられた知恵と美意識について
 遊びながら学び、広めていく活動をしている団体です

         
      嵯峨野文化通信は、伝統文化を「遊ぶ」ためのヒントを発信します

                毎月1日・15日(月2回)
 
                   ■VOL:129(2011/6/17)

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               ■□■もくじ■□■
 ■【連】からのお知らせ ——————「水無月の茶」をお楽しみください
 ■東日本大震災のチャリティー茶会「三壷庵新緑茶会」開催のご報告
 ■(連載)『餅と饅頭ー和漢の境まぎらわす事ー』—————–第三十八回
 ■(連載)『源氏が食べるー平安文学に描かれる食ー』————– 第三十回
 ■(連載)『北野の芸能と茶屋』——————————– 第三十三回
 ■(連載)『やまとのくには言の葉のくに』————————-第九十首
 ■[嵯峨野学藝倶楽部]6月開講講座のお知らせ

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  いつも嵯峨野文化通信をお読みいただき、ありがとうございます。
  今号の発行が、大幅に遅れましたことをお詫びいたします。
  これからも、皆さまに楽しんで伝統文化を感じていただけるようなメールマガジ
 ンを発行していきたいと思いますので、今後とも嵯峨野文化通信をよろしくお願い
 いたします。
                                 編集部一同

            □■【連】からのお知らせ■□

 ■「水無月の茶」をお楽しみください

  有斐斎 弘道館の今月の月釜は、19日に行われます!今月は、「沙羅」がテーマ
 です。去秋の淇園展でもお世話になった、「民の謡」の皆さんとコラボして、皆様
 に楽しんでいただきます!
  ご予約せずに、当日お気軽にお越しいただけるお茶会となっておりますので、ど
 うぞお誘い合わせの上、お越しください。

 日程:6月19日(日)
 時間:11時~15時 
 場所:有斐斎 弘道館
 参加費:1,500円(申込不要)

 篠笛演奏
 11時、13時頃より2回行われる予定です。それぞれ、15~20分間の演奏
 です。
 篠笛体験
 希望者は演奏の後、20~30分ほど篠笛の演奏体験ができます。
 (1,000円が別途かかります)

 ※もっと本格的に体験をしてみたいという方は、特別に体験稽古をしてくださる
 ことになりました。
 稽古時間は14時から16時頃までの予定です(3,000円が別途かかります)
 当日お申し出ください。
 ※お茶会にお越しいただいた方は、演奏は無料でお聴きいただけます。

 民の謡HPはコチラ
 http://www.taminouta.com/

 有斐斎 弘道館HPはコチラ
 http://kodo-kan.com/tea.html
   
 こちらの有斐斎 弘道館月釜は2011年10月より、月釜制(会員制)に移行
 いたします。
 只今、会員申込中ですので気軽にお問合せください。
 問合せ先はコチラ
 info@kodo-kan.com

  □■東日本大震災のチャリティー茶会「三壷庵新緑茶会」開催のご報告■□

  嵯峨野学藝倶楽部が主宰する茶道教室では、先月、東日本大震災のチャリテ
 ィー茶会を開催しました。以下、ご報告いたします。
  ご参加、ご協力いただいた方々、ありがとうございました。

  このメールマガジンでもお知らせしたとおり、去る5月22日、三壷庵にお
 いて新緑茶会を開催いたしました。
  当日は、朝方激しい雨に見舞われたにもかかわらず、各回とも多くの方々に
 お越しいただき、78名の方々に参加いただきました。盛況のうちに、21名
 のスタッフも皆様とともに休日のひとときを過ごすことができました。
  この場をお借りしてお礼申し上げます。
  会場に設置しました募金箱には皆様から多額のご寄付を頂き、教室生一同、
 東日本大震災の被災者の方に対する皆様の温かい思いとお茶を通じた人のつな
 がりの強さを実感しました。
  スタッフも参加費という形で協力し、教室生が一体となって経費を押さえる
 努力をし、その上で皆様から頂いた参加費の一部と募金箱に寄せられた寄付金、
 総計8万7760円につきましては、裏千家淡交会災害救援基金及び京都新聞
 社会福祉事業団に寄付します。
  なお、茶道教室では、今年の10月上旬に茶会を開催する予定です。詳細に
 ついてはおってこのメールマガジンでもお知らせしますが、新緑茶会同様、初
 めての方も含め皆様是非ご参加ください。
                          三壷庵茶道教室 一同

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          ■『餅と饅頭ー和漢の境まぎらわす事ー』■

                 第三十八回

                                太田 達

  六月、京都の菓子屋の店頭には、「水無月」が並ぶ。
  元々は、六月の晦日にのみ調製していたものだが、いつからか、どんどん店
 頭に並ぶのが早くなってきたようだ。様々な京都特有の菓子(京都のみで販売
 しているもの)も同様である。百貨店の戦略や、全国展開している製菓材料会
 社の販促の為か。
  年中行事というのは、菓子産業にとって大きなマーケットであるから、この
 結果は致し方ない。しかし、多くの京菓子が京都にしかないというブランドを
 失っていくなかで、「水無月」は、三月上巳の「引千切(ひちぎり)」と同様、
 京都ブランドとして健闘している。他府県から京都に来た感性のすぐれた大学
 生たちは、菓子屋の店頭に「水無月」の文字を見つけた時「何?」と反応した
 と証言する。「水無月」は白と黒の三角形に小豆がちりばめられている。餅様
 の菓子は外郎製である。この三角形に大きな意味があるとされており、氷の形
 をあらわすと言われている。

  六月朔日は古代より、「氷の朔日」とされてきた。
  古代中国には、国王の食や酒や水など身の回りのことを司る天官という国家
 制度の仕組みがあり、その中に、「蔵氷」と「賜氷」という、氷を冬の間に作
 り、氷室に蓄えておき、夏に蔵から取り出し利用する凌人(りょうじん)とい
 う部署があった。
  賜氷の制度は、日本においても、奈良時代にはほぼ確立されていた。『日本
 書紀』の中に仁徳天皇が62年、鷹狩りという準戦闘行為の最中に鬪鶏(つげ
 =現奈良市郊外の都祁村とされる)に居を構えていた氷室守りを発見し、従属
 させるという記述があり、長屋王廷跡から発掘された木簡から、都祁氷室と長
 屋王における氷の利用の実態が明らかにされている。日本の賜氷制度は、主水
 司(もひとりのつかさ、もんどのつかさ)という宮内省直属の官職により、金
 閣寺の裏山の赤坂氷室町や、西賀茂の氷室村において執行されてきたが、13
 世紀中にその制度が形骸化する。

          ■『源氏が食べるー平安文学に描かれる食ー』■         

                   第三十回       

                              荻田 みどり

  6月も半ば、私の実家から、庭の梅を梅干しに漬けたという便りが届いた。
 『枕草子』「にげなきもの」(似つかわしくないもの)の章段には、梅が出て
 くる。

   歯もなき女の梅食ひて酸(す)がりたる
   (歯もない老女が梅の実を食べて、すっぱがっているの)

 この直前には、対比されるように、同じく老いた者の食事風景が描かれる。

   鬚がちなる者の椎つみたる。
   (年老いて鬚だらけの男が椎の実をつまんで食べているの)

 歯もないのに梅の実をすっぱがっている。何て不相応!
 無骨な男が小さな椎の実をつまんで食べる。何て不釣合!

 確かにその光景を想像すると、滑稽に思えてくる。
 ただ、それでも清少納言の目に留まる光景だった。そんな一片を「にげなきも
 の」として切り取った。
  では、誰ならふさわしいのか?
  口の中からじわじわと溢れ出してくる欲求。それを喚起する力が、梅の実に
 も、椎の実にも、ある。
  私としては、酸っぱい梅干しよりも、とろりと甘い梅酒の方が好きなのだが。

               ■『北野の芸能と茶屋』■           

                   第三十三回              

                               井上 年和

   延徳三年(1491)4月7日
   「今日鐘鋳辰刻云々、貴賤群衆無是非者也、仍社家警固、西京加下知、各
    罷向者也、」
                            『北野社家日記』

  経王堂前で鐘鋳が行われた。当時梵鐘の鋳造は、芸能興行が盛んで人々が多
 く集まり勧進の寄付集めが容易であったことと、鋳造は仕込みから鋳あがって
 力車に乗せて引き返るまでの行程そのものが行楽の見物対象であり、芸能とな
 り得ていたのである。鐘鋳踊歌などの風流踊歌や、木遣り歌、石曳き歌などの
 歌謡が響き渡る労働現場と同じような光景である。

  この日の北野の鐘鋳については他の記録でも、『実隆公記』に「今日北野宮
 寺鋳鐘云々、都鄙貴賤群衆、言語道断云々、」、『山科家礼記』に「今日北野
 ゝカネ井候、」と記されている。以下、北野での鋳造の記事を一覧すると、

   延徳四年(1492)4月25日「今日愛宕山鐘鋳在之、春松丸外之会所
  内に構桟敷、女房衆各罷出也、事外之群集云々、」『北野社家日記』
   同日「愛宕山推鐘、於北野経王堂、今日鋳之、」『晴富宿祢記』
   永正二年(1505)4月25日「北野経堂前鋳鐘、善光寺鰐口也、今日
  鋳損云々、」『実隆公記』
   永正十三年(1516)8月17日「山下寺家鐘鋳、海運聖興行之、於南
  大門前鋳之、口三尺二寸云々、衆徒於拝見物、貴賤群衆輩凡及六万人云々、
  此鐘不成就、破了、」『厳助大僧正記』
   永正十五年(1518)4月25日「山下鐘於北野鋳之、無事鋳之、数万
  人群集云々」『厳助大僧正記』
   天文十四年(1545)3月26日「今日誓願寺鐘、北野経堂北にて鋳之
  間、(中略)見物に参詣、都鄙貴賤男女不去道也、何万人共不知数也、暫令見
  物、帰宅了。」『言継卿記』
   永禄十二年(1569)4月8日「今日於経堂大仏之蘿髪鋳之、都鄙之貴
  賤男女群衆云々、南向参詣云々」『言継卿記』
   永禄十二年(1569)4月25日「於北野経堂、又大仏之蘿髪鋳之、貴
  賤群衆云々、」『言継卿記』

 等々で、北野社用の鐘と言うよりは、善光寺、山下寺、誓願寺、大仏(東大寺
 か?)等、他の寺の鐘や蘿髪を造っていたようだ。また、ほとんどの鋳造は天
 神講のある25日にあわせて行われていた。

  以上のように、経王堂での鋳造を見物に多くの人が集まり、芸能興行のよう
 になっており、また、その場には他の芸能も集まり、北野社周辺のにぎわいを
 演出していたのだ。

            ■『やまとのくには言の葉のくに』■          

                   第九十首                 
 
                               田口 稔恵

  音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ鳴く虫よりもあはれなりけれ
             (源重之 『後拾遺和歌集』 巻第3 夏)

  (音もたてずひっそりと燃える想いに身を焦がす夏の蛍こそ、秋の鳴いて恋
   を訴える虫よりも風情が感じられることだよ)

  「蛍を詠みはべりける」という詞書がある。蛍は人の魂と見立てられること
 が多いが、ここでは蛍の光を「恋に身を焦がす火」に喩える。和歌では「思ひ」
 の「ひ」を「火」と掛ける修辞がよく用いられた。

  「蛍を秋の虫と考え、鳴く虫と対比させた」という説があるようだが、この
 歌は夏の部に入首しており、やはり蛍は夏の虫である。ここではむしろ、「夏
 の恋」対「秋の恋」の構図である。
  秋の虫の音は誰が聞いても心揺さぶられる哀切さがあり、共感しやすい。し
 かし、夏の蛍は鳴かないために、注視しないと気づかれないが、その実、恋に
 身を焦がしている、という趣向だろう。
  俚謡では「恋に焦がれて鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が身を焦がす」と、同じ夏
 の虫である蝉と対比されている。冬の燃え盛る炎よりも埋み火のほうが消えに
 くい、という内容の歌や、素性法師の「底なき淵やは騒ぐ山川の浅き瀬にこそ
 あだ波は立て」という和歌に共通の型を持つ。

  作者の源重之は、生没年未詳だが、おおよそ1000年くらいに没したとみ
 られる。
  卑官ではあったが、河原院文化圏の一員として、創造的な和歌を試みた歌人
 である。百首歌の創始者とされている。
  彼は、宮中で藤原行成の冠をはたき落とすという暴挙のために陸奥に左遷さ
 れた友人、藤原実方に随行して陸奥に下り、そのままかの地で没した。風流才
 子として、華やかな伝説に彩られた実方と比較して、和歌の道に邁進し、三十
 六歌仙の一人と崇められた重之の情熱は、蛍のそれに似ている気がする。

  ちなみに、百人一首に採られた重之、実方の歌は、二人の性質をよく反映し
 ているように思われて興味深い。苦しい恋を内省的に詠んだ重之。情熱的な恋
 を絢爛たる表現技法で詠んだ実方。

   風をいたみ岩うつ波のおのれのみ 砕けてものを思ふころかな (源重之)

   かくとだにえやはいぶきのさしもぐさ さしも知らじな燃ゆる思ひを
                               (藤原実方)

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       □■[嵯峨野学藝倶楽部] 6月開講講座のお知らせ■□

 詳しくは、http://www.ren-produce.com/sagano/club/をご覧ください。

 ■「茶道教室(土曜日コース)」
  日時:6月18日(土)
  場所:嵯峨野三壷庵
  時間:10時~19時(ご都合の良い時間にお越しください)
  講師:西村 宗靖・太田 宗達
  ※見学/体験も、随時受付けています。

 ■「京都文化教養講座1~信仰からみる京都~」
  日程:6月18日(土)
  場所:有斐斎 弘道館
  時間:11時~12時30分(90分)
  講師:太田 達
  テーマ:「禊と祓」
  参加費:1回2,000円(生菓子、抹茶付き)
  ※1回のみの参加も、随時受付けています。
  ※要申込 メール:kouza@kodo-kan.com

 ■「京都文化教養講座2~茶の湯の文化を織る~」
  日程:6月21日(火)
  場所:有斐斎 弘道館
  時間:13時~14時30分(90分)
  講師:矢野 環(同志社大学教授)、太田 達、濱崎加奈子 ほか
  テーマ:「鎌倉時代の茶 ~施茶と養生~」
  参加費:6回1,2000円(1回毎2,000円/生菓子、抹茶付き)
  ※要申込 メール:kouza@kodo-kan.com 
 
 ■「茶道教室(水曜日コース)」
  日程:6月22日(水)
  場所:嵯峨野三壷庵
  時間:10時~19時(ご都合の良い時間にお越しください)
  講師:西村 宗靖・太田 宗達
  ※見学/体験も、随時受付けています。

 ■「今様・白拍子教室」
  日程:6月25日(土)
  場所:嵯峨野三壷庵
  時間:25日 10時~14時
        (個人レッスン日となります。詳しい時間は要相談です)
  講師:石原 さつき
  ※見学/体験も、随時受付けています。

 ■「うたことば研究会」
  日程:6月25日(土)
  場所:嵯峨野三壷庵
  時間:15時~16時(60分)
  監修:田口 稔恵
  ※資料代等が必要です。詳細はお問合せください。

 ●URL
  http://www.ren-produce.com/sagano/club/

 お問合せ・お申込みはコチラまで→ sagano@ren-produce.com

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               ■□■ひとこと■□■

  沖縄は、もう梅雨が明けてしまったようです。
  季節を告げる、いろいろな自然の営みが、段々とずれて早くなっているよう
 な気がします。
  いま「当たり前」であることが、5年後、10年後にも当たり前であってほ
 しいと、最近思うようになりました。

                                (まつだ)

     [次回は、7月1日(金)に配信予定です!次回もお楽しみに。]

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多くの方に有斐斎弘道館の活動を知っていただきたく思っております。
記事が面白かったら是非、シェアいただけると幸いです。