2020年2月24日、有斐斎弘道館、再興十周年を記念したイベント、創作劇「勧進「新〈淇〉劇」(しんきげき)が京都市上京区の金剛能楽堂で上演されました。
有斐斎弘道館は、江戸時代の儒学者・皆川淇園のもと、全国から門弟三千人が集った学問所の跡。そこが再生され、有斐斎弘道館として日本文化の学びの場となっていることを祝い、さらに次代へと淇園の思いをつないでゆきたい。そんな思いを共有する実行委員会(代表 林宗一郎)とそのネットワーク、勧進によって、この催しは実現しました。
勧進(かんじん)とは?
勧進という言葉は、もともと仏教の僧侶が仏の教えを説くことを言う勧化(かんげ)勧請から発しています。奈良時代の行基、平安時代の空也、東大寺を再建した重源が各地で説法をして寺院・仏像などの新造、修復のため寄付をあつめること=勧進をしました。また、琵琶法師が『平家物語』を語り、寺社の改修費用を集めたことや、勧進相撲、勧進能など、勧進は芸能と深く結びついています。勧進は、有料で芸を見せる最初でもありました。今回の「勧進「新〈淇〉劇」は、弘道館の運営のための勧進も大きな目的でした。
異分野の芸能者が集った、実験的な創作劇「勧進「新〈淇〉劇」
上演された「勧進「新〈淇〉劇」は、弘道館で講座「能あそび」を担当する能楽師・林宗一郎を中心に、能楽師、篠笛、落語、花という異ジャンルの芸能者が集まり、作られたオリジナルの舞台。出演者が、弘道館を通じてつながった、気心の知れた関係ということもあり、稽古やディスカッションを重ねた制作プロセスは、流行りの「コラボレーション」という域を超え、演出には実験的な要素も盛り込まれました。
そのひとつが「未来神」というキャラクター。能の構造「複式夢幻能」には、過去から幽霊の姿で現れるキャラクターが登場しますが、「勧進「新〈淇〉劇」では、劇の中に「未来」という時間軸を設定。江戸時代の皆川淇園の元に「未来神」が現れ、(江戸にとっての未来である)令和のいま、淇園の志が弘道館として受け継がれていることを淇園に伝え、現代の観客と江戸時代の淇園の心を結びました。
通常、同時に音が奏でられることがない、能の笛「能管」と、祭の笛「篠笛」の重奏。能管が過去を、篠笛が現代を象徴する音として演奏され、そのふたつが重なることで、劇中で起こる「時空の歪み」を耳で感じさせる演出。狂言羯鼓と謡のかけあいも、斬新な響き。謡(有松遼一・作)には、弘道館と淇園にまつわるエピソードが散りばめられていて、音楽に乗せて淇園の世界観が生き生きと感じられました。花士・珠寶が立てる花が、交差する時間の結び目のようにあらわれ、語りを担当する落語家の桂吉坊が、実は弘道館の「ある重要な存在」だった‥‥という笑いまで盛り込まれました。
京都カラスマ大学で、演者による事前講座を開講
お互いを知ってはいても共演は初めて。そんな演者たちの距離をぐっと縮めることになったのが、「新〈淇〉劇」事前講座として、京都カラスマ大学で開講された連続講座『今さら聞けない、伝統芸能「基本のキ」』。演者が聞き手、話し手となって、お互いにとっての「今さら聞けない」質問をぶつけあう、ほかでは絶対に聞けないクロストークとなりました。講座レポートは京都カラスマ大学ホームページでお読みいただけます。https://www.karasumauniv.net/
2月24日、本番レポート
林宗一郎(有斐斎弘道館再興十周年記念実行委員会代表)の挨拶のあと、廣瀬千紗子(同志社女子大学名誉教授、公益財団法人有斐斎弘道館理事)の講義「京の江戸時代と弘道館」、そして廣瀬千紗子、有松遼一( 「新〈淇〉劇」 作者)、濱崎加奈子(有斐斎弘道館館長)による鼎談「新<淇>劇できました!」が行なわれました。皆川淇園と京都の江戸時代に想像を広げるひとときとなりました。
そして、いよいよ 「新〈淇〉劇」 が開演
「勧進 新〈 淇 〉劇」出演者
??? … 桂吉坊
館長 … 珠寶
皆川淇園 …有松遼一
淇園 の猫 … 茂山逸平
客人 … 茂山宗彦、鈴木実
未来神…林宗一郎
???…太田達
篠笛…森田玲
笛…杉信太朗
小鼓…大倉源次郎
大鼓…谷口正壽
太鼓…前川光範
地謡…田茂井廣道、松野浩行、河村和晃、河村浩太郎
後見…河村和貴、 樹下千慧
制作
構成 …林宗一郎
作詞…有松遼一
作詞協力…大倉源次郎
ピーチク…茂山逸平
パーチク…桂吉坊
衣装協力…鷲尾華子
学術協力…松田清
演者とスタッフの舞台裏
出演者だけでなく、衣装や制作スタッフも、弘道館ゆかりのひとたちの力が集まりました。
文:沢田 眉香子 写真:伊藤 信