教養に支えられた「信じる心」を育む「場の力」を大切に―花士 珠寳氏

時間を共有し、化学反応の種をまく

いけ花には様々な様式があります。目的、空間によって、道具、花の様式、花材を選択します。そして、神仏や人ヘ花を献じます。いけ花は形が残るものではありません。その時、一瞬一瞬の印象が残って、ある時、何かをきっかけに化学反応を起こしてまた「ひらく」。誰かとつながったり、人とものが結び付いたり。そういう役目を花がしてくれていると思っています。

有斐斎弘道館とも、花が繋いでくれたご縁でした。数年前、下鴨神社の糺勧進能で献花をと、館長の濱崎さんにお声掛けをいただきました。弘道館の建物と庭を有志の皆さんで一生懸命守ってこられたことを知ったのもその時です。なにが皆さんをこんなに突き動かすのだろうと考えてみると、そこには、信仰心があるように思います。ここで言う信仰心というのは、「仏様を拝む」ということではなく、自分がしっかりと信じられるものを持っているかどうかです。そういった「信仰心」を持つには、健康で幅広い教養を身につけることが不可欠だと思います。弘道館のプログラムを見ると、日本が育んできた文化や歴史を学ぶ講座が、どなたでも入門しやすいように間口を広くして提供されています。何も知らない方にも、「面白そうだ」と思える貴重な学び場として企画運営されていることに合点がいったのでした。

慈照寺の初代花方として、東山文化に関する講座を企画

私は神戸で阪神淡路大震災を経験しました。しばらくすると、どういうわけか花にたいする疑問、興味が以前と比べようがないくらい強くわきあがりました。復興が進めば進むほど心にあいた穴は大きくなって花のことを深く知りたくなり、思いがけないご縁やお導きで花のことに没頭していきました。それまでの人生や価値観ががらりと変わり、気がつけば原点である東山の時代が、義政公が、自分の心の中心に在りました。慈照寺で初代花方を務めさせていただき、その後、「青蓮舎花朋の會」を立ち上げ活動を続けさせていただいています。

慈照寺の花方時代、東山文化について、縦横に関係するさまざまな観点から講座を開講していました。それは、文化に対する理解を深めて日本文化のサポーターを増やすこと、そして24時間、頭と体を使って、探求をなさっている文化人の皆さんを少しでもサポート出来ればという2つの目的を持って企画内容を考えました。慈照寺はご承知のように多くの拝観者があり、皆さまから頂戴するお供えで、建物、庭などを維持管理ができています。場所、ハコだけの維持だけでなく、それをどう活かし社会へ還元するか。そういった意識を持って慈照寺は研修道場を開場されました。現在の弘道館と目指すところは大きく違わないのです。ですから、おもて方、うら方の大変さは少し想像することができました。

「足利義政公ゆかりの場所」だからこそ

慈照寺は東山文化、足利義政公の文化のエッセンスが詰まった場所です。慈照寺にいたころは、「場の力」というものを強く感じていました。勉強や花はどこででもできます。ですが、場の力を得ることで、気付きやひらめきが生まれることがあります。歴史ある場所というのは、自然と人の叡智の結晶。土地や建物や庭のデザインなどにも、すばらしいエネルギーがやどっていると信じています。だからそういった建物や場所は大切にして未来へ引き継ぎたいと考えるのは、ごく自然なことだと思います。ただ昨今は、残念なことに取り壊されてしまう建物が多くあるようです。そんななかで、弘道館は取り壊しの危機を脱して、10年の活動を続けてられている貴重な場と言えるでしょう。古い建物の維持や管理を現実的に考えると、壊して新しくせざるを得ないという事情もわかります。その時に相談できる場所や、工夫ができる仕組みがしっかりあればと強く願います。

コラボレーションから生まれる交流に期待

2月24日の勧進「新<淇>劇」では、たて花様式で献花をさせていただきます。

たて花には、主役となる「しん」があり、それを補ったり、引き立てたりするわき役の「そえ、下草」があります。それらを適材適所に配置して調和させることが花士(はなのふ)の仕事です。空間全体を俯瞰で立体的に捉えて、中心から始まり、彼方と此方へと立て下していきます。その時、意識をしているのは“余白〟です。花の形を作るのではなく、気持ちの良い余白ができているかで花の姿を確認します。実際、花をたてるときには、花瓶の口のあたり「水際」だけに集中しています。じっと集中していた水際から、最後にエネルギーが螺旋状に天へ立ちのぼる全体の姿を確認し、必要なら調整します。

いけ花は単独で成立した文化ではありません。大陸からの文化、唐物ありきで、仏前供花、かけ絵と器物と一緒に座敷を飾る花として存在し、和歌、能楽や茶、香、絵、工芸などさまざまな文化と関わりながら発展してきました。花は、能や現代音楽、現代美術、建築、庭などいろいろな方とご一緒させていただく機会があります。そうすることで、能の方が花に興味を持ってくださったり、花を習っている方が能楽堂に足を運ぶようになったりということもあるようです。私自身もいけ花以外から、多くのことを教わります。これからもそういったすばらしい機会が一つでもふえればと、心から願っています。

プロフィール> 花士 珠寳 (しゅほう)氏

慈照寺初代花方。同寺の国際文化交流事業では、フランス、香港、アメリカ、メキシコ、台湾などでの文化交流プログラムで、文化施設・団体と交流。音楽や現代アート、工芸、建築などのクリエーターとも協働し、国内外の音楽フェスティバルや展覧会などのイベントにも数多く参加している。2015年独立。草木に仕える花士(はなのふ)として、大自然や神仏、時、ひと、場所に花を献ずるなど「花をする」ことを国内外で継続。同年、「青蓮舎花朋の會」を設立。京都、九州、東京の教場で、花を通して、豊かな生活時間を作ることを提案している。2016年からは香港に加え中国本土でも活動し、日本文化を海外で発信する外務省の事業「JAPAN HOUSE」にも関わる。2017年より京都造形芸術大学美術工芸学科客員教授。著書に『造化自然 -銀閣慈照寺の花-』(淡交社)、『一本草 -花が教える生きる力- 』(徳間書店)がある。

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