多彩な担い手が交わることで 文化が生まれる。弘道館はそのサロンとして 中心的な役割を―華道「未生流笹岡」家元 笹岡隆甫氏

受け継ぎながら新しい観点を取り込んで10 年

有斐斎弘道館のことは、立ち上げ当時から知っていますので、もう 10 年ほどになります。最初に話を聞いたときは、街中であれだけの敷地面積ですし、「すごいことだ」と感じました。「この場所を守ろう」という心意気に感銘を受けたことを今でも覚えています。それから 10 年。 続けてこられたことは、本当に素晴らしいことですが、これだけのものを残していくには、大変なご苦労をなさってきただろうと思います。
この10 年の 間、 弘道館で行われる さまざまな催しに参加をさせていただくなど、 いろいろなご縁を頂き、 関わらせていただいてきました。その度に感じ ているのは、文化を受け継ぐだけにとどまらず、 新しい観点も取り入れているということで す。昔のものを残したり、復興したりしながら、新しさも加えていく。 これは大切なことで、館長の濱崎さん、理事の太田さんだからこそできたことです。

生け花に欠かせない、床の間を持つ空間

生け花にとって古建築は重要な存在です。 生け花はそもそも建築空間を装飾するという役割を担って生まれてき ました。 床の間は生け花の舞台のような空間なのです 。 背後に壁があり 、横にも壁や柱があり 、横や後ろからのぞかれない 。 生け花の正面性と床の間は切り離すことができません。 また、 床の間には 明かり障子 から光 が入る。その陰陽を意識して、花を生けます。ですからこういった建築がなくなると、生け花は意味をなさなくなるとも言えます。このことは、生け花からも発信しないといけないことですが、それを弘道館がしてくださっているのは、本当にありがたいことです。

「人」のつながりこそが継承を可能にする

「文化を残していく」と言いましても、結局、大切なのは「人」。これに尽きると思います。

私たちの流派は昨年100周年を迎えました。このとき実感したのは、流派というのは型を持ち、その技術を伝えることが大きな目的になりますが、型や技術のみが伝わっていても意味をなしません。師匠から弟子へとつながっていく人の〝つながり〟のようなものが、流派の意味なのではないかと、100周年を機に実感いたしました。流派の中の人だけではなくて、周りから支えてくださる方たち、応援してやろうという方がいないと、流派は成立しないのです。多くの人に支えていただいて、続いてこられたのだと感じています。

また、文化を支えてくれる人には、職人という存在もあります。古建築を維持したり、建てたりする技術を持っている人が、どんどん少なくなってきています。技術を伝承するという意味でも、建物そのものを残すことには、大きな意味があるのではないかと思います。生け花の世界でも、花ばさみを作る職人、器を作る職人がいなくなっています。10年後には、花ばさみが作れないのではないかと言われています。そうなると生け花という文化が成り立たなくなってしまうでしょう。文化を支えている人たちがいないと、文化は成立しません。職人をどう育てていくかということは今、大きな課題です。

違う方向からも光をあてて、創造していく重要性

新しい文化というのは、人と人のぶつかり合いのなかで生まれてきました。京都は山に囲まれた盆地で、そのなかに仏教の本山、茶の湯やいけばなの家元、能楽師、陶芸家、学者といったさまざまな文化の担い手がいらっしゃいます。さらには、現代アーティスとも入ってきて、非常に面白い空間となりました。そういう方たちが普段から友達付き合いをしていて、大きな影響を与え合って、気負わずに掛け算ができる。一緒にものづくりができる。それが京都なんです。私たちも現代アートと関わりを持つことが、非常に大きな気づきになることがあります。自分たちとは全く違った光の当て方をしてくれると、ものの見方も変わって、立体的に見えてくるのです。

私たちはどうしても生け花、日本文化という方向から光をあてます。しかし、違う文化の人とぶつかれば、違った方向から光をあてることができ、新しいものをつくっていくことができる。これがこれからの文化のあるべき姿ではないかと思います。弘道館はサロンとして、その中心的な役割を果たしてくださると期待しています。

建物を残していくためには、資金も必要です。このことを考えると海外のゲストの方も含めて、多くの方に特別な体験、京都ならではの建築を生かして暮らしの粋を体感していただくような仕掛けを提供するということも良いと思います。そして太田さん、濱崎さんをはじめ、弘道館に関わる人たちがますます活躍の場をひろげてくださることが弘道館を盛り立てることにつながる。そう思っています。

プロフィル〉華道「未生流笹岡」家元 笹岡隆甫氏

1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒業。3歳より祖父である二代家元笹岡勲甫の指導を受け、2011年、三代家元を継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、日本-スイス 国交樹立150周年記念式典をはじめ、海外での公式行事でも、いけばなパフォーマンスを披露。2016年には、G7伊勢志摩サミットの会場装花を担当した。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学客員教授。京都市教育委員会委員。

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