2025年9月28日、有斐斎弘道館月釜、2025年度第3回を開催しました。この日は藪内流の茶道家、鶴栖居 吉田常茗氏に席主をつとめて頂きました。

まず玄関の寄付きには、青竹と青々とした棕櫚の葉の、作り立ての瑞々しい棕櫚の箒が飾られていました。流派によって細かな決まりの形があるそうです。こちらは藪内流の決まりに則して作られたもの。
これを受け、待合の出口には弘道館の蕨帚を飾りました。
茶事では外露地に棕櫚帚、内露地に蕨箒を吊すのが習わしとのことです。(実際は中々お目にかかれなさそうですが)
今回9月下旬とは言えまだ残暑が厳しく、ちょうど省略した露地渡りの見立てとなりました。棕櫚の青々しさが庭の木々の代わりに、目に清涼感を与えてくれました。

待合に進むと飾られているのは松村景文の稲穂図。優れた花鳥画で知られる景文は、ここ弘道館の創始者 皆川淇園とも親交のあった画家です。
愛らしい秋草が入れられているのは、稲塚籠---刈り取られた直後の稲が田んぼに一時的に積み上げられた「稲塚(いなづか)」型の花入れです。

本席の床には飛鳥井雅章の祝言「世をめぐむ きみがこころと 雨風も たみのくさ葉に ときをたがえぬ」と赤米の稲穂を飾った三宝。

脇床は大徳寺435世 大綱宗彦(だいこうそうげん)の和歌「秋祝 雨風も ほどほどにして あめがした 田の実ある世の 秋ぞ楽しき」 と、たっぷりと大きな升には、越前米の新米。
随所に秋の稔りの趣向が散りばめられた今回の茶会のテーマは、「田の実の節句」。八朔の別名です。
今では八朔と言えば、新暦8月1日の盛夏に京都の花街で芸舞妓が正装で挨拶回りをする風習として有名ですが、そもそもは旧暦8月1日、ちょうど早生の稲穂が実る頃に、その年の豊作を願い、日ごろお世話になっている方々に初穂を贈っていた風習が元になっています。


菓子は、席主がこの日のために菓子職人と打ち合わせて誂えた、錦玉製の菓銘「金風」。収穫を控え黄金に稔った稲穂が田んぼで風に揺れる景色を表しています。ご製は老松。薄茶は山本山の「天下一」でした。

また当館にまつわる道具として、代表理事 太田宗達の祖先である、萩原従言卿御作の一重切竹花入「世々都」と、主茶碗に秀吉ゆかりの古萩を用いて下さいました。和歌を愛し、公家文化や歴史にもお詳しい常茗氏。太田との掛け合いで萩原家の豊臣家や細川家との関係や、また幕末での和宮や藪内流との繋がりなど、非常に興味深い話を伺えました。歴史の物言わぬ証人として、茶の湯や茶道具がいまもここに残っていることに、改めて感動を覚えます。


この日は吉田常茗氏を慕う多くの方々もビジターでご参会下さり、いつもに増して賑やかなお席となりました。
吉田常茗氏のやさしい語り口調で、趣向に込められた物語を聴き、本来の季節の情緒を味わい、そこに秘められた先人の想いを知ることで、人と人のご縁、そして歴史と人を連綿と繋ぐものとしての茶の力を感じる一会でした。
有斐斎弘道館では、月釜の年間会員を募集しております。弘道館保存のための活動です。宜しくお願いいたします。
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◆開催概要
2025年度有斐斎弘道館月釜 第3回「田の実の節句」
開催日 2025年9月28日(日)
席 主 鶴栖居 吉田常茗
茶道家、藪内流。毎月自宅で四季折々の月釜を催す
※当イベントは終了しました。
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