<実作部門>

角彩

大賞: 福島幸治「角彩」

参考: 尾形乾山「色絵石垣文角皿」

新しい息吹を感じた作品。今回のテーマである「琳派」は日本のデザインの始まりと言われる。対象物をデフォルメ、形や色のパターン化など、作品にリズムをつくりだす技などもここから始まっている。その視点で見た時に、この作品はあたかもモンドリアンの絵を見るようであった。そこに、京菓子デザインとして今までにない新しさ、斬新さを感じた。さらに、京菓子としてもしっかりと作られている。伝統を引き継ぐ人には、攻めの姿勢が必要だ。「温故知新」という言葉がぴったりくる作品であろう。銘については再考の余地があると思われる。更なる研鑽を期待したい。

藤波

優秀賞: 山崎恵莉子「藤波」

参考: 鈴木其一「藤花図」

ブルーという「たべもの」にとっては難しい色に取り組み、それを大変うまく京菓子としてデザインした作品。また、藤の花をあしらい、ブルーのグラデーションをそこに効果的に見せるために、菓子のつくりそのものにも工夫がなされていた。意欲作といえる。

松の追憶

優秀賞: 勇元百合乃「松の追憶」

参考: 尾形乾山「銹絵染付金銀白彩松渡文蓋物」

意外に「ありそう」で「ない」作品。オーソドックスな松の形に、外側には古木の色合いを、内側には深い緑を配して中を包み込むというデザインはユニーク。作者が参考作品を十分理解した上で創菓したことを感じる。

梅の木の下で

審査員賞: 片岡聖子「梅の木の下で」

参考: 平松礼二「梅花樹」

大胆で個性的な作品。西洋のエンブレムを思い起こさせる「和洋折衷」のデザインを、オーソドックスな京菓子の形状に落とし込み、違和感がない。作者の試みを評価したい。

<デザイン部門>

光琳梅

大賞: 朝倉良江「光琳梅」

参考: 尾形光琳「紅白梅図屏風」

「琳派賞」ともいえる作品。琳派といえば誰もが思い浮かべる作品の一つ、「紅白梅図屏風」。応募作品もこれを参考とするものが多かったが、その中でも屏風をこの形状にまとめ込み、配色を施したデザイン力は秀逸である。

白鷺

優秀賞: 二階堂志紀「白鷺」

参考: 尾形乾山「四季花鳥図屏風」

ユニークな素材使いの作品。鮮やかな赤い菊の向こうに、純白の白鷺が佇んでいる。その姿を表現するために、薯蕷の皮とアイシング(粉糖を卵白で溶いたもの)を組み合わせたのは京菓子としては今までにないであろう。アイシングで菊の花びら感を出すという表現力も素晴らしい。

蔦の細道

優秀賞: 金汀「蔦の細道」

参考: 俵屋宗達「蔦の細道図屏風」

非常に美しい作品。応募のデザイン画は参考作品の世界観を美しく表現していた。ただ、その“透明感”の実現性に懸念があった。それが、京菓子職人の匠の技で、十分にその世界観が表現され、京菓子となって現れた。双方の力で生み出された作品。

かさねがさね

審査員賞: 畔柳加奈子「かさねがさね」

参考: 伝尾形光琳「芥子螺鈿蒔絵重箱」

「重なり」によるデザインを評価した作品。デザインコンセプトそのものが考え抜かれていて、美しい「重なり」を表現しているだけでなく、素材の組み合わせにいたるまで貫かれている。実際に食べると、その美しさと美味しさを実感できた点も評価した。


審査員からの講評

冷泉為人(財団法人 冷泉家時雨亭文庫 理事長)

今回、若い人の応募が多かったことは、この公募展の趣旨からみて喜ばしいことであり、今後ますます頑張って欲しいと思います。ただ、「銘」と「季節感」が合致してない人が多く、応募者の知識不足を感じました。お菓子を作ろうとする人が、それではいけないのではないかと、ある種の危機感を感じたというのが正直な感想です。京菓子を作るということは、「京都」をどのように考えているのかということでもありますし、それは、日本とは、日本人とは、という問題でもあるかと思います。季節感がきちんとと理解されているかということ。京菓子の場合、「銘」によって季節感が表されるわけで、それが間違っているとすれば、食べる以前の問題と言わざるを得ません。また、もうひとつの問題は、思いを表現する手段、すなわち技術が伴っているのかどうかということでしょう。応募書類だけでは判断しかねる部分が多かったのは残念でした。
また意匠の点においては、今回は、琳派と京菓子がテーマということで、琳派の絵に引きずられてデザインした菓子が多かったのも残念でした。写実よりも、抽象的なデザインになっているほうが京菓子らしいと思います。

廣瀬千紗子(同志社女子大学 特任教授)

型を破ろうとすると、京菓子らしさが失われるとうジレンマにどれだけ挑めるか、難しいところだろうと思います。
「京菓子」というのは一種の制約だと言えます。たとえば、色・形・大きさ・重さ・菓子の外の世界と繋がること、そして何よりも、食べ物であることなど。そのような、「京菓子」という制約を創造的に受け入れ、逆手にとって新たな創作の糧とする、そこに新しい境地がひらけると思います(言うは易く・・・ではありますが)。「琳派」そのままではなく、「琳派」を自分なりに消化し、そのエッセンスを生かして、「マイ琳派」になっている作品に完成度の高さを感じました。デザイン部門では、デザインを実現する菓子職人さんの技術力にも、大いに支えられました。
公募展の値打ちは、冒険ができることでしょう。年々、水準は上がっているようです。大胆だけれども、「京菓子」だと認めざるを得ない、そんな作品を期待しています。

土佐 尚子(アーティスト、京都大学教授)

私の審査の基準は、「京菓子の未来を感じるかどうか」でした。
伝統は現代に合わせて変容することによって守られ、未来に継承されます。そのような要素を取り入れている作品の評価を高くしました。そのためには、感覚だけでなく京菓子の歴史をひもとき、四季の季節感やかさねの色目、季語などの知識も必要だと考えます。また今後、京菓子の世界にも技術革新が入ってきて、3Dプリンターなどで作る時代が来るかも知れません。その時に、機械が絶対に対応できない手作りの技巧を目指すのか。どう考えるか。今年の作品には、このような京菓子の未来を考えさせる作品もありました。
惜しいことがあります。実作部門への応募にあたり、せっかくの京菓子の写真が良くないものがありました。写真の撮り方、美しい見せ方、それも審査における評価の一部です。気を付けてください。

杉本 節子(料理研究家、公益財団法人 奈良屋記念杉本家保存会 常任理事兼事務局長)

京菓子をテーマの中心に据え、その理解を深めるという目的をもつこの展覧会は異色です。
今年の琳派400年にあたり、初回の昨年に比べ、飛躍的に応募数が増えたことは喜ばしいことです。特に、高校生や大学生といった若い方々の応募が増えたことは素晴らしいと思います。
用意された審査基準以外に、私自身が評価をする際に気を付けたのは、単に絵図のモチーフのうつし込み、それを配置したという範囲で「完成形」としたかのように受け取れるものは、評価の対象としないことにしました。
今年の応募作品は、昨年に勝るとも劣らず、各々に工夫がこらされたものが多くあり、今後新しい京菓子の表現がここから発想される予感がいたします。本年をきっかけとして京菓子の可能性がよりひろがることに大いに期待したいと思います。

濱崎 加奈子(専修大学 准教授、有斐斎弘道館 館長)

京菓子と琳派は、王朝文化を底流にしつつその抽象性や自然に対する美の意識などにおいて、互いに共通するところも多く、特に京菓子にとって琳派はなくてはならない存在です。にもかかわらず、改めて琳派をテーマに京菓子を作るとなると、互いに相反する要素のあることに気づきます。
琳派と京菓子の双方を、それぞれ深く探究すればするほど、この難しさを実感することになると思います。
その壁をどこまで乗り越えようとしているのか、それが作品に如実あらわれていると感じました。